"TOE to TOP"
2018/1/19

“TOE to TOP”


RIDE DATA

天気
行動距離
95.2km
獲得標高
3983m
ベースウエイト
4.5kgまで
温泉入浴
3回
宿泊
本沢温泉
赤岳鉱泉

学生時代に友人と青臭い感じで話していたのは、”世界を広げる”事についてだった。
海外に行くと日本について客観的に見る事ができるという事に端を発し、高い所や遠い所に行けばより広く見渡せるし、知識や経験があればモノゴトをより深く理解できる。つまり、”世界を広げる”というのは、自身の中で当たり前になっている常識や習慣や日常から飛び出し、モノゴトを多角的に見るための眼を持つ事だった。(その対義は、あまり深く考えずに他人と同じ選択をして安心する事。)

今回の参加者のひとり、齋藤くんは、自転車で林道を走るうちに、その先へ行ってみたくなりハイクを始めたそうだ。

自転車を降りて歩く。

自転車に乗る人からしたら地面に足をつく事はひとつの敗北を意味したりするのかもしれないけど、発想を少し変えれば、その先には新しい世界が広がっている。
同じく、ハイクの人も、自転車でアプローチすれば、普段歩き始める道のその下には日常につながる魅力的な世界が繋がっている事を感じるかもしれない。

発想を変えれば、、というのは文字で書く以上に難しい。常識を揺さぶるために、時には多少の無茶や強い衝撃が必要になるかもしれないが、それこそが、複眼的に世界を見つめる事なのだ。
そして今回の自転車とハイクで行った山行はまさしくそんな強烈な体験になった。


八ヶ岳といえば野辺山CX。いつも遠くに神々しく鎮座していた山の頂上へ登って滝沢牧場を眺める視点を獲得する日が来るとは。

RIDEALIVE2017 特別編

サークルズが3年に渡って開催してきたバイクパッキングのライドイベントRIDEALIVE。4年目は外に目を向けて色々な分野で活躍する人をアンバサダーとして招いて、一緒にライドを開催してきた。

バイクパッキングというアクションの源流であるウルトラライトハイキング(U.L.ハイク)を辿ってみたいという考えがあった事や、以前たまたまイベントで隣になった時に購入した5-Pockets Shortsが自転車にも最適で、OMM BIKEやミャンマーを含むロングライド時の定番パンツになっていた事から、そのモノづくりとバックグラウンドがとても気になっていた“山と道”の夏目さんを訪ねて鎌倉のファクトリーへ向かうところから今回の旅は始まった。

何度か鎌倉に通い、名古屋へも来てもらって、色々と話し込んだ。
夏目さんもカルチャークラブで古くからの愛車をレストアするところからこの長い行程をスタートしている。

能書き的な事は参加者募集の時点で色々と書いたので割愛するが、平日3日間開催に参加できる仕事/生活調整能力と、ある程度の体力と技術、自転車や山道具の重量制限、といった諸条件にその意思は反映されている。
他の回には無いその高い参加ハードルのため、特別編と銘打ち、参加者がいなくても開催しようと思っていた今回のTOE to TOPは結果的にバラエティに富んだ個性をもった7名(+1名)の最高のパーティーで開催する事ができた。

DAY1 野辺山駅〜本沢温泉(BIKE)

標高1,345.67m。日本で一番高いところにある駅-JR小海線野辺山駅の集合はお昼の12時。余裕を持った時間に設定したつもりだけど、ほぼ全員がギリギリ。夏目さんにいたっては、ザックをまるごと電車に忘れてくる始末。
何とかスタートするも、すぐにタイヤのバースト音が聞こえ、パンク修理のために立ち寄ったコンビニの別の場所では、早くも裁縫セットを取り出してカバンを縫っている大ちゃんの姿が。みんな「トラブルは旅の醍醐味でしょ」と笑っている。こっちはハラハラドキドキしている。

しかし、それぞれ驚異的なリカバリー能力を発揮し、種々のトラブルは一気に解決。
我々は「トォートゥートォッーーープ!」のオリジナル掛け声を生み出し、ぎこちないながらも晴れやかなリスタートを切った。

八ヶ岳での開催が決まってから、バイクルートの設定を手伝ってもらったRapha Japanのヒロも一緒に走ってくれて、晴天の野辺山を進んでいく。

こうやって走る姿を後ろから見ると、これまでのキャンプライドより明らかに荷物が少ないのがよく分かる。

広大なキャベツ畑を抜け、林道の未舗装路に入る。
ゆっくりと迫ってくる八ヶ岳の山塊と、背後に横たわるその広大な裾野。ちょっと手強いガレた林道を走りながら、少しずつ標高が上がっていくのとは裏腹に、すでに気持ちはかなり高揚している。

スタートが遅かったせいもあり、時間はかなり押してしまった。本沢温泉入口の駐車場に着く頃には日が傾いた林道はかなり明度を落としていが、ここから温泉までさらにハイクで2.5時間と看板(山と高原地図では2時間10分)にある。

バイクだと30分でしょとの見積もりは大変に甘く、急に斜度を増した道はMTBで軽快に走った高田君以外はほとんど押しの行程となった。しかし、ピンクから紫に、そして濃紺へと変化していくマジックアワーの林道の怪しくも美しいこと。

真っ暗になってから到着した本沢温泉は標高2150mという日本で最も高い場所にある野天風呂。
まずはビールで乾杯した後、早速ヘッドランプを付けて入ってみる。

約30km1355mUPという、何でもないDAY1のコースプロフィールでも、その大半がガレたダートのアップダウンで、さらに2泊分の野宿装備を積んでいるとなると、体の疲れは相当なものだった。でも、硫黄臭が強めの温泉にゆっくり入るとかなり体は軽くなった。温泉の効能をここまで如実に感じる事も稀だ。あと2日間いけそうだ。

経験値の差は食事に出る

お風呂から上がってテントを設営してから、ようやく晩御飯。

ハイク慣れした3人の次から次へと出てくる食材とそれを使った美味しそうな料理に圧倒される。
ベースウエイト4.5kg以下というルールは水,食料を含まず、途中は小屋食も利用するという条件のため、各種調味料やビールおつまみを含む食材は豊富に用意して、初日の夜に豪華な食事をして荷物を軽くするのだという。なるほど。

行程や条件をしっかり把握して、時には逆手にとり、楽しむというところに応用する。
U.L.ハイクというのは極限まで荷物重量を減らす競争ではなく、楽しむための必要最低限を見極める事だというのを改めて思い知る。

UL文化は同時にMYOG-Make your own gearという、自分に必要な道具を自分で作るというカルチャーも生み出している。パーツや装備のアッセンブルが中心の自転車とは大きく違う部分だ。
道具も素材も体力も資金も限られる山の中で、知識と経験の差が最も大きく出るのが食事だという事実を突きつけられる。悔しい。。

気前よく分けてくれる美味しいキャンプ飯をありがたくいただきながら、兎に角にも、温かくて美味しい食事というのはいつもチカラになるということを思うのだった。まずは家で練習しよう。

コンビニ袋を使った照明。ビールからハードリカーに飲み物を移しながら、森の夜は更けていく。

DAY2 本沢温泉-中山峠-天狗岳-夏沢峠-硫黄岳-赤岩の頭-赤岳鉱泉(HIKE)

二日目の出発は朝7時。

山小屋に相談して、自転車は中庭に置かせてもらえる事になった。
試走の時に聞いた話では、ここまで自転車で来られる方はけっこういますよとの事だったけど、それをデポして泊まりで山に登る人はほとんどいない様子だった。

「トートゥートップ!!」の掛け声でハイクパートのスタート!だんだん皆の息も揃ってきた。

いきなり稜線を目指すのではなく、少し下って山腹をトラバースするルートで中山峠を目指す。
このルートはところどころが沼地になっている苔むした原生林でとても気持ちが良い。

八ヶ岳は南北に長い火山連峰で、夏沢峠を境に北八ヶ岳と南八ヶ岳に別れる。まず北八ヶ岳が噴火し、それが収束した後に南八ヶ岳が噴火して今の山容になった。古い火山帯である北八ヶ岳は少しなだらかで、この山腹の森も深い。苔の名所として知られ、480種ものコケ類が生息しているそうだ。

中山峠を越えて黒百合ヒュッテで早めの昼食をとった。
夏目さんの持ってきたフリスビーで遊んだり、ムックリ(アイヌ口琴)を鳴らしたり。

稜線伝いに天狗岳へ。快晴で暖かく半袖Tシャツで充分だ。
夏目さんとタカはベッドロックのサンダルを履いているため、すれ違う登山者は眼を丸くして驚いているのが分かる。
ショーツでの登山と同じく、快感とリスクとのバランスは一度固定観念を捨てて考えてみる価値はあると思う。

直径1km深さ600mもある巨大な爆裂火口がある硫黄岳の山頂に到着。その遙か下方には昨夜入った本沢温泉が小さく見える。
せっかくだからとお鉢の先端まで行ってみる。

硫黄岳から赤岩の頭を通って西側の山腹へ下ると、八ヶ岳のもう一面の顔が見えてくる。いつも東側からしか見てなかったから新鮮な景色だ。
緩やかにカーブする八ヶ岳連峰の内側に入るかたちになるので、前後左右から覆いかぶさってくる山なみに圧倒される。

予定では行者小屋でテントを張る予定だったが、赤岳鉱泉の山小屋で温泉に入れる事が分かり、急遽予定変更して、ここを幕営地とする。
途中の沢に入ってアイシングなども行った他、3日間毎日温泉に入る温泉登山となった。赤岳鉱泉は昨日入った本沢の硫黄泉とは全く違う鉄鉱泉。火山帯でありフォッサマグナの上にある八ヶ岳は、峰によって岩質がくるくると変わるり、温泉も多種多様に湧き出ているバラエティに富んでいてテーマパークのように楽しい。

そして、夜にはテントサイトの最深部で自分達のためのバーを開店。倒木をうまく使って雰囲気を出す、MYOBである。その精神、何となく分かってきたぞ。

DAY3 赤岳鉱泉-行者小屋-赤岳-横岳-硫黄岳-夏沢峠-本沢温泉(HIKE)-野辺山-DILL eat,life.-小淵沢駅(BIKE)

明け方、気温は5℃近くまで下がったようだ。寒い中、寝袋から這い出し、ぱぱっと朝食を摂る。

まずは行者小屋までウォーミングアップがてら歩き、すこし暖まったところで、恒例となった掛け声でこの後の急登に備える。もうみんな息はぴったりだ。

八ヶ岳最高峰-赤岳(2899m)への登りが始まる。

朝の冷たい空気が山に当たり雲になって立ち昇っていく。
景色は一気にドラマチックになり、同時に私達の気持ちもどんどん高まっていった。
もうここ数日の素晴らしい体験の数々が思考の処理能力を越えていて、感情がオーバーフロー気味になっている。360度の全ての景色が美しい。
また寄り道をして石のカタマリによじ登ってみたり、脇道にそれてみたり、足元の草花や昆虫に気を取られてみたり。

有名なクライミングのポイントである大同心では下からアタックしようとしているパーティーが見えた。
手を振ると遠くに小さく応えてくれた。

硫黄岳に戻り、南北八ヶ岳の境目である夏沢峠から一気に本沢温泉まで下る。
膝は笑い始めているけど、高田くんと好きなアイドルの話をしながら頑張る。よく分からない謎のテンション。
この先にはもう一度温泉が待っているのだ。

今旅3度目の温泉に浸かり、そして最後のバイクパートがスタートする。
充実した3日間に体は疲労困憊、頭はオーバーフロー気味。でもそこからさらに最高のダウンヒルが始まるのだ。
脚の疲れは自転車のライディングに影響を及ぼさなかった。別腹ならなぬ別脚だ。

ゆっくり堪能した登りと逆に、ハイスピードで美しい林道を駆け抜ける。
謎の奇声を発しながら滑り降りてくるみんな。

野辺山からさっきまでいた八ヶ岳の頂を振り返ると去来する不思議な感覚。
さっきまであそこにいたんだよ、信じられる?

道は舗装路になり、28号を八ヶ岳高原大橋へハイスピードで下る。
(この下り坂がどれだけ最高か、野辺山に行ったことがある人なら知ってるはず。)

波状に押し寄せるエピローグのご褒美をこれでもかと堪能しながら、ゴール地点であるDILLへなだれ込んだ。

そう。我々は最後の最後にも最高のディナーを用意していたのだ。
料理研究家の山戸ユカさんと浩介さんのご夫婦が営むDILL eat,life。アウトドアにも精通するお二人にとって、遊び場も近く、豊富な食材が手に入るこの場所は、名前の通りの”食べることは生きること”を実践していくには最高の場所なんだと思う。次々に出される魔法がかかったような美味しい料理が疲れた体の隅々へと行き渡り、夢のような時間を過ごす事ができた。

全ての出来事がハイライトだった

〜しない? 〜行かない? 何か面白そう〜 という異世界へのオファーや沸き起こる興味と好奇心は、出会いやひらめきのようなもので、だいたい突然やってくる。あ、これは絶対面白いやつだ!と直感で分かる時、今まで想像していなかった世界との邂逅があった時はとりあえず飛び込んでみる。やっぱりダメかもしれないし、新たな地平が見えるかもしれない。それは自転車から降りてハイクや釣りや波乗りをする様なドラスティックな変化もあれば、ベースウェイト(道具の重量)の計測といったちょっとしたアイデアの実践かもしれない。小さな取っ掛かりからも世界は広がっていくのだ。

山を楽しむという事を全身を使ってちゃんと考えたいという思いから始まった今回のTOE to TOPは、素晴らしい体験をもって大成功だった。この経験は今後の遊びや生活に大きな影響を及ぼすだろう。


Today's Rider

"TOE to TOP"


山と道 夏目彰

最高だった。あァ〜最高だった。最高最高最高最高。いくら書いても足りないし、残念ながら伝えることが出来ない…。僕もあれは最高の体験だったと思い返すけど、実際の感動の何分の一が僕の身体と心に刻み込まれ、残っているのか…。時間は残酷にも感動を置いて進んでいくのだ。バイクが楽しい、山が楽しい、勿論!!でもそれ以上に、楽しい出会い、楽しいトラブル、全てのその偶然性が生み出した”それ”を共有できた仲間たちが非常に素晴らしかった。宇宙的な幸運の出会いと素晴らしい体験…。精一杯良いイベントにしたいと関わらされていただいたけど、そんな目論見を大きく超えてイベントは奇跡的なライドを刻みましたとさ。
本当に皆様と宇宙に感謝いたします。同じ感激は生まれないと思うけど、また違う感動が生まれることを信じて、また行きたい!!


山と道
http://www.yamatomichi.com/



   

-ITEM SPEC by 斎藤くん-



-RIDER STYLES-


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