Bike to 仏教遺跡
2016/10/1

Bike to 仏教遺跡


RIDE DATA

天気
平均気温
30
走行距離
100km
全旅費
8万円
航空会社
エアアジアX

実は10数年前に一度ヤンゴンに来た事がある。

当時はまだ軍事政権の時代で、アウン・サン・スー・チー氏はインヤー湖のほとりの自宅に軟禁されてた。
かつてロンドンと同じレベルの世界最先端の街と評されたヤンゴンは、戦争と政治的混乱の中でその面影をひそめ、人は多いがどこか陰鬱で雑然とした暗い町並みの中、シェダゴンパゴダだけがピカピカと輝いているという印象だった。

10年経って時代は変わった。
アウン・サン・スー・チー氏は2011年に開放され、近くを通っても誰もその話題に振れなかった自宅は今や観光地になっているらしい。
多く犠牲者を出した民主化運動は昨年ようやく実を結び、ここ最近の世界各国の過激な政治活動からすると多分に平穏無事な、選挙による政権交代というカタチで民主化された。

それから1年も経っていないけど、テイン・セイン首相の経済開放政策はずっと続いていたので、ちょっとぐらいは雰囲気が変わっているだろうなと想像しながら、バガンからヤンゴンへ向かう快適3列シートの夜行バスに揺られている。

今回のライド機材

そう、揺られている。とても揺られている。
バスが走る道はあまり良くない。この激しい揺れはトランクに入っている自転車にも伝わっているだろう。振動の少ない飛行機よりバスの方が輪行の難易度が高いと気づいた時にはすでに遅く、今は政権の事よりも自分の自転車が心配だ。

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ライドに使った自転車はREW10WORKSにオーダーしたブレイクアウェイ(分割式)のカスタムバイク。組み上がってすぐOMM BIKEに出た時のレース仕様から、フォークやハンドル、ホイールを変え、ツーリング仕様に換装した。
輪行のために分割式にしたので、こうやって旅行に使わないと、折りたたまない折りたたみ自転車のように本末転倒になりかねない。注文した機能と能力を使い切るところまでがフレームオーダーだ。(と自己暗示をかけ、あちこち行きたい。)

そして、約450kmの今回のライドルートは半分が未舗装路。先のレポート(Mandalay toBagan)の写真のようなグラベルやアスファルトが混在している、まさにオールテラインな走行環境の中では、手前味噌ながら、シムワークスのオマージュタイヤはベストチョイスだった。多少の悪路も平気だし、オンロードで距離をかせぐ事もできた。

バッグ類は全てポーセリンロケット
チューブスのデュオラックに付けたマイクロパニアと最近増えてきたサポートフープが付いたサドルバッグの先がけともいえるミスターフュージョン V2
この2つで1週間分の荷物とハンモック&タープの野宿セットを入れてまだまだ余裕があった。水や食料の補給場所が無い荒野を行くのでなければ、荷物はかなり少なくなる。フル装備のバイクパッキングも憧れるけど、荷物は少なければ少ないほど速く遠くへいけるのだ。
ハンドルに付けてカメラをすぐに取り出せるスリンガーバッグと、貴重品入れのハンターフェニーパックも大活躍だった。

そして何より大きなメリットとなったのが走行の快適性だった。
レースの強度で走るわけではないが、旅行となると毎日それなりの距離を走る事になる。43cのエアボリュームのあるオマージュと、荷物を背負わないバイクパッキング装備の組み合わせは、細くて硬いロードタイヤや、荷物を背負って走った時に感じるような、上半身がガチガチになる疲れが無く、翌日のライドにほとんど影響が出なかった。フレーム自体はそれほどツーリングに向けたジオメトリでは無いので、タイヤとバッグの性能が大きかったように思う。

シェダゴンパゴダ

ツーリング用の機材のことをあれこれ考えながらウトウトしているうちに、ヤンゴン郊外の長距離バスステーションに到着した。
今回はちょっと少なめの、約3人の観客に囲まれながら自転車組み立てショー。自転車は何とか無事だった。
朝日がまぶしい街中に走り出したものの、これまでと全然違う車の量に圧倒され、地理感覚が分からない。おなかもちょっと痛い。

BikeTo仏教遺跡 ミャンマーライド map ride myanmar

とりあえず街の中心にあるシェダゴンパゴダに向かってみる。

途中にロード自転車(といっても、30年前のツーリングバイクの中古のようなボロボロのバイク)に乗ってトレーニングする3人組に声をかけられた。
「どこからきたの?フィリピン?」
「ジャパンです!」

大量の路線バスには苦戦したけど、バガンまでの行程にはあれだけ多かったスクーターとeバイクがほとんど走っていないので、ヤンゴン市内はそれほど走りにくいわけではなかった。
ただ、この時はまだ重大な事実に気づいて無いだけだったのだが。

BikeTo仏教遺跡 ミャンマーライド map ride myanmar Bangkok jakarayan

宗教の聖地に行くのはとても好きだ。
日本にいるとなかなか実感する事がない”信じる”という行為を実態をともなって見る事ができるから。

BikeTo仏教遺跡 ミャンマーライド map ride myanmar Bangkok jakarayan

ヤンゴンのシェダゴンパゴダもそんな場所のひとつだったが、今回は日曜日という状況を差し引いても以前と様子が違っていた。
大量の観光客でごった返している境内はゆっくり祈りを捧げる雰囲気ではなかった。よそ行きのファッションに着飾ったミャンマー人達が簡単に祈りを捧げたあとにパゴダを背景にスマホで自撮りする姿が目立った。例えば京都の有名な寺院が大量の観光客が来ているおかげで信仰の場としての性質が見えにくくなっているのと同じような感じだ。

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シェダゴンパゴダを出て街に向かっても同じだった。ヤンゴン大学周辺は特に進んでいて、お洒落なカフェやショップも多くて、もう民族衣装であるロンジーをはいてる人の方が少なかった。少し路地に入るとまだまだ雑然としたアジア特有の風景があるけど、おそらく消え行く運命なので記憶に残しておこう。

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そうそう。昔はこういう感じだった。

古いものが無くなって、他のアジアの都市と同じような風景になってしまうのは少し寂しいけれども、それはそれで悪くは無いはずだ。

センチメンタルな気持ちで久しぶりのヤンゴンをあとにするべく空港に向かうと、国の威信をかけた空の玄関にふさわしく、ヤンゴンで一番モダンなピカピカの建物に変わっていた。サードウェーブコーヒーを飲んでそうそうたるラインナップの免税店を通り抜け、飛行機に搭乗すると、向かう先は老朽化して暗ーい雰囲気のバンコク-ドンムアン空港。前回と真逆の感覚だ。

自転車は違法

帰ってきてから調べると、ヤンゴン市内にスクーターが少なかったのは、法律で禁止されているためだった。
それは何となく気づいていたけど、なんと自転車の走行も法律違反だった事が判明。。街で出会ったあのローディー達は、早朝や夜間のお目こぼし時間帯で楽しんでいたようだ。
逮捕されなくてよかった。。

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普通にバスを利用しましょう

ドンムアン空港について自転車を組み立てるともう夜になっていた。
空港から都心まで25kmぐらいなので1.5時間ほどで着くなーと軽く考えながら出発したのだが、、、
空港敷地から出て都心へ向かう車道は、80km/h以上で走る車が途切れる事なく流れるほぼ高速道路だった。
決死の思いで日本と同じ左側の路肩を走っていると、左からの2車線合流し、いつのまにかど真ん中を走ることに。そして、このまま進むとToll Way(さらにその上を走る高速道路)への進入路との看板があったので、決死の覚悟で車線変更すると、変更した先が高速への入口になっていて、引き返し、分岐の中洲に取り残され、一瞬の車の切れ目を待つ事15分、ヘッドライトで速度感が分からないまま近づいてくる車の間を渡る。そんな命がけの車線変更が何度も必要だった。
地元の自転車乗りが、バンコクの交通はクレイジーで、特にラッシュアワーだけは絶対に自転車に乗るのを避けるべきと何度も言ってた事が頭をよぎる。
死ぬかと思った。

ジャカラヤン

バンコクは世界各国へ旅行へ行く時の出発点。というハブ機能が今でも有効なのかどうか分からないけど、バンコク経由にしたのは、ミャンマーへの乗り継ぎの他に、シムワークスディーラーでもある自転車店ジャカラヤンに行くという目的があるからだった。

高層ビルが立ち並ぶダウンタウンを抜け、王宮やワットポー(王宮寺院)の集まるロイヤルプレイスを横目にチャオプラヤ川側を渡った対岸、東京でいうと深川,両国のような下町エリアにジャカラヤンはあった。定休日だったお店を無理言って開けてもらい、バンコク市街を色々と案内してもらった。
バンコクの若い人たちの感覚は、日本人とほとんど変わらない。何がかっこいいのか、どうすれば面白くなるのか、といった話は同じ意識の元でできる。いやむしろ、英語が堪能でバイタリティがあって、お金もある彼らの方が、この先よっぽど面白くなるかもしれない。

BikeTo仏教遺跡 ミャンマーライド map ride myanmar Bangkok jakarayan
BikeTo仏教遺跡 ミャンマーライド map ride myanmar Bangkok jakarayan

夜になって交通量が少し減る時間帯、雨季特有のスコールを避けながらライドにつれていってもらった。
街中は自転車が少ないけど、サイクリングロードが整備されている地区には高級カーボンロードからピストまで自転車がいっぱい走っている。
空港からのルート以外でもラウンドアバウトで思った方向へ進むにはかなり強引な車線変更が必要なバンコクの都心は自転車で走るのに向いていないけど、
郊外に行ったり、チェンマイやシンガポール方面には無数に良いルートがあるみたいだ。

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お昼に連れて行ってくれたヌードル屋も最高だったし、夜のタイ料理とベーカリーのお店もとにかく良かった。
骨董屋の様な内装でプリーツプリーズを着たきっぷの良い女将がいて、お店の前で謎の楽器を延々と演奏してる人がいるそのお店はネットで調べてもほとんど情報が無かった。バンコクに行った際にはぜひジャカラヤンクルーに連れて行ってもらって欲しい。

BikeTo仏教遺跡 ミャンマーライド map ride myanmar Bangkok jakarayan

いつも通りのライドを

最終日は空港への移動のみ。途中の露店でフルーツシェイクを飲み、地獄のハイウェイに備えた。
来た時よりは少ない交通量に少し救われながら、でもやっぱり怖い思いをしながら空港に到着。ようやく手慣れてきた自転車解体梱包を行い飛行機に乗り込む。
満席の機内。隣はかわいいタイ人の(おそらく日本のアニメと音楽が大好きな)女の子。海外に出るのは初めてで、しかも一人旅だそうな。英語も少し怪しいドジっ子系だったけど、短い大阪旅行を楽しんでくれてるといいなあ。

海外に行くと凄い旅行者にたくさん出会う。世界一周系の人も多いし、荷物がパスポートと財布のみの人や、シンガポールからドイツの自宅まで中央アジア経由で自走するサイクリストもいた。
こうやってレポートにして振り返ってみると、何だか大変なライドだったように見えるけど、南アルプスでのパスハンティングや、伊豆の山を走り回っていた時に比べればなんてことはない。ハードコアな旅にすこし憧れつつも、やっぱり自分では普段と同じ軽装で、あまり無理をせずできる事を続けていきたい。自転車で行く目的地と好奇心に国境を設けないようにという事を意識しながら。

さて、次はどこに飛ぼうかな。


Today's Rider

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