飛行機チケットだけを買って初めてひとりで海外旅行へ行った先は中国だった。20年ほど前の事だ。
大気汚染で霞んだ夕焼けの景色が広がる上海虹浦空港に到着して外に出たら、旅行ガイドに書いてあるバス停は全く見当たらず、タクシーの客引きが集まってきて何かまくしたててくるばかり。これまでの常識が何ひとつ通用しない世界が眼前に広がっている事に愕然とし、そしてその面白さに興奮した事を鮮明に覚えている。
そして四川省の成都から雲南省の昆明へ向かう寝台列車に乗っている時に香香(シャンシャン)と出会った。
世界有数の山岳路線を一泊二日で走る車内、暇を持て余し、ガムの包み紙で折り鶴を折っていたら、隣で彼女も同じものを折っていて、どちらからともなく一緒だねって声が出た。メモに走り書きする漢字の筆談と、身振り手振りでコミュニケーションを取る。
どこから来たの?
あなたの身長はどれぐらい?
どこまで行くの?
どこで働いているの?
それまで1週間ほど中国を旅行して、この国の女性達の苛烈な強さ(と、男のだらしなさ)を見てきていたけど、シャンシャンはとても物静かでハニカミ屋で透き通る白い肌の烏龍茶のCMに出てくるような可憐な女の子だった。
どうやら彼女は麗江のゲームセンターで働いていて、成都の親戚のところへ行った帰りらしい。
思い切って紙に書いてみた。
您(あなたは) 恋人 有?
そうすると、
我 待 白馬 王子
と書いて返ってきた。
電車から降りた雑踏の中でバラバラになって彼女を見失ってしまった。始まったばかりの旅行をそっちのけで女の子を追いかけるにはまだ奥手すぎた自分を今ではとても後悔している。
今回の旅の目的は20年ぶりに麗江に行って彼女を探す事。 というのほとんど冗談だけど、 この時の出来事は“旅情”というものの原体験として、旅行や移動中だからこそ出会ったり感じたりする出来事の魅力を強く印象づけた。
中国は国民の92%を占める漢民族の他に55の少数民族が暮らしている多民族国家だ。その少数民族の宝庫である雲南省には25の民族が住んでいて、15の民族は雲南にのみ暮らしている。ひとつ山を越えるだけで言葉も文字も家も服もまったく違う人々の生活があるのがとても不思議な感じがする。
雲南にそのような民族のモザイクが生まれたのは、高標高の山岳地帯や、それを縫うように流れる大河の源流、稲作が生まれた肥沃な平原などの多種多様な自然環境があるからだ。
民族だけではなく、世界自然遺産に指定されている「三江併流」のエリアだけで地球上全動物25%の個体が生息するといわれている。
そんなエリアが面白くないわけがない。最初の海外旅行先を雲南省の大理にしたのは、まったく別のひどい理由(その理由はReplicant.fmというポッドキャストで話しているので興味有る方はどうぞ。)だけど、結果的にこの場所を最初に体験できた事が、旅行好きのルーツなのは間違いない。
旅行というのは、安定した日常から離れて、お金や時間、体力、仕事などに折り合いをつけ、慣れない環境に飛び出す事だ。家にいた方が楽なのに、多くの障壁と困難を乗り越えてでも旅に出るには、強い強い好奇心を持つ事から始まる。
いまのご時世、行けない場所はほとんど無いが、雲南省が面白いらしいと知ってから、実際に行く人がどれぐらいいるだろうか。(このレポートの質はおいといて。)
今回もっとも印象的だったのは、中国人観光客の増加だった。20年前には雲南省に旅行するような中国人はほどんどいなかったが、今回はどこも観光客だらけだった。経済的に余裕ができた事が訪日を含む旅行習慣を生んだとするのはもちろん間違いないだろうが、外の世界に対する好奇心の爆発も国の勢いを象徴する要素のひとつになっているはずだ。
数多くの行きたい場所の中から、ざっくりと今回の旅程を設定して絞り込む。
雲南省の中心地である昆明(クンミン)までの直行便が出るようになったというのが、また雲南へ行きたくなったきっかけだったが、もうひとつ重要なのは、ライドルートとして面白そうだった事だ。
昆明から、メジャーな観光地として大理(ダーリ)と麗江(リージャン)、さらに北のチベット文化の入り口である香格里拉(シャングリラ)まで。途中に5000m級の山々の麓を通る。
グーグルマップで大理→シャングリラのルートを引いてみると、距離は約380kmと出た。これぐらいなら行けそう。獲得標高は20,000m、、、2万?!
バイクパッキング装備で2万mUPはさすがに無理だと思って色々と調べてみると、GoogleMapの衛星写真と地図上の道路がだいぶズレているようだ。
Stravaのヒートマップでは実際に自転車が通っている様子。ネットにはほとんどレポートが無く、逆向きの下り基調ルートを走った古い記事が唯一見かけた日本語記事だった。その他、ロンリープラネット、地球の歩き方などの情報を統合すると、上りではあるがそこまで激しくは無い様子。結局10日間の行程+予備1日でライドルートを組んだ。
大きな誤算は天候だった。雲南省は5〜10月が雨季となっているが、9月の1〜2週目なら終盤なので大丈夫だろうという目論見は外れ、前半はほとんど雨。大きな山々も雲に隠れて見えなかった。その分、虎跳峡で一瞬の晴れ間に玉龍雪山の山頂が見えた時は感動的だったが、やはりベストシーズンに行くのが良いと思う。
20年前は上海から1週間以上かけて昆明にたどりついたが、数年前から関空-昆明の直行便が出来たと聞いていた。しかしよく調べてみると、その中国東方航空MU748便も直行ではなく上海で同機乗換との事だった。どうせ上海に降りるならと思って、セントレアから上海経由(空港間移動あり)の昆明の往復便を55,000円で購入した。
ところが、出発当日に台風21号が直撃。早朝出発の飛行機は遅延で午後発になり、上海乗継ぎ便に間に合わなくなった。チケットを購入したエクスペディアには全く電話がつながらず、かなり焦ったが、セントレアの待合室で検索して、同日の上海→昆明のフライト(四川航空 3U 8202便)をtrip.comで7,800円で手配。
昆明到着が予定より6時間ほど遅くなり空港泊になったが、何とかリカバリーできた。こういう緊急事態は、格安航空券サービスは全く問題を解決してくれない事、諦めずに冷静になれば意外と良い解決がある(かも)という事を学んだ。
移動の日時は自由に決めたいため、宿泊の予約はしなかった。ただし、入国の際に宿泊先を聞かれて困った。iPhoneで適当な宿を指差してOKになったけど、厳しい場合は問題になるかもしれない。
実際の宿泊場所は、中国では中国国际青年旅舍という政府公認のユースホテルが各地にあり、それを利用する事が多かった。ドミトリー40元〜、シングル100元〜といった感じだった。(17円/元)
有名なユースホテルやゲストハウスには世界各国からバックパッカーが集まっていて、旅の情報交換ができるし、英語ができるスタッフがいるので色々相談できる。airbnbも少しあったが、他の旅行者との交流したかったので今回は利用しなかった。
ライドルートはほとんどが舗装路。途中にトレイルやダートがあったら走ってみようぐらいのイメージ。といっても、シングルスピードのREW10の自転車しかないのでいつも通りのスタイル。
飛行機輪行はブレイクアウェイでフレームを分割し、Welldoneにオーダーした専用輪行袋に入れて、ミャンマーで買ったゴムで縛る。10回ほどアジア圏で国際線に乗ったが、今のところこれで大丈夫だった。でもフレームに傷を防ぎたいならもう少し養生が必要。
今回はバイクパッキングの本来のスタイルである、フレーム、ハンドル、サドルの各バッグのみにして走行性能を重視した。フロントパニアを使ったミャンマーの時よりも操作性は抜群に良いし輪行もしやすい。荷物は全て自転車に積載。背負うのはカメラのみ。
日本でのライドや登山でも同じだが、水と食料が手に入る場所を事前チェックする事は、ルートを考える上で重要だ。Google MapとBaidu(百度)マップを使って、飲食店や商店の有無を事前チェックした。
もちろん現地での情報収集も必要だし、峠の入口はなんとなく察して水や食料を補給する。
虎跳峡からシャングリラへ向かう哈巴(ハバ)雪山の東廻りルートは260kmあり、宿や商店もほぼ無さそうだった。結局、虎跳峡であまり体調が良くなかったため西廻りの幹線道路ルートを走った。
以下、今回食べた食事の一部。地元民で賑わっている店を選んで入る事が多い。全部美味しかったけど、ヤクのバターミルクティーが濃厚で印象的だった。
昔は財布とパスポートとトラベラーズチェックと地球の歩き方のコピーという持ち物だったけど、今はスマホがある。こういう情報はすぐに古くなりそうだけど、一応残しておく。
中国のインターネットは閲覧規制されていて、GoogleもSNSもそのままだと見れない。規制をかいくぐる方法はいくつかあるけど、制限の無い香港のSIMを使うのがおすすめ。Amazonで売っているので事前に購入して、現地で差し替えるだけでOK。SIMを取り出すピンを忘れずに。
ゲストハウスにはVPNを通したフリーWi-Fiがあるが、通信できたりできなかったりで不安定だった。
全ての中国人がQR決済を使用。現金を見ることがほぼ無かったが、外国人は現金しか使えなかった。最近QRも使えるようになったらしいが、手数料が高いようだ。クレジットカードは高級店のみ、銀聯カードはまあまあ使えるということで、普段使っているVISAカードから追加発行して持っていったが、大きな買い物はなく、ほとんど使わなかった。
スタートして4日目、麗江到着の翌日にカメラが雨で濡れて壊れたため、写真が全然無いけれども、iPhone6の雑な写真も含めて次のページで各地を振り返ってみたい。
Jacket | Nanga | AERIAL DOWN PARKA PACKABLE |
Tops | 山と道 | Merino Hoody |
Pants | Gramicci | Gramicci Shorts |
Pants | 山と道 | 5-Pocket Shorts |
Bib shorts | Search and State | S1-S Riding Bib Short |
Leggings | Snow Peak | Merino wool leggings |
Rain wear | mont-bell | バーサライトジャケット&パンツ |
Cap | welldone | Jet cap |
Bag | Hunter Cycles | Shred Packs |
Eye wear | Smith | |
Shoes | Quoc | Gran Tourer |
T-shirts x2 | ||
Scocks x2 | ||
Under wear x2 | ||
手ぬぐい x1 |
一番頭を悩ませたのがウェアだった。上海や昆明の気温は30℃、標高3200mのシャングリラは最低気温5℃という予報。途中はもっと高い峠がありそう。という環境。積める荷物にも限りがあるのでなかなか難しいオーダーだ。雨で濡れたソックスは現地調達も行った。